角膜について
黒目の表面にある透明な組織で、角膜を通った光が水晶体で屈折し、硝子体を抜けて網膜に像を結びます。角膜は0.5㎜程度の厚さを持ち、角膜上皮という組織によってダメージや感染から守られています。ただし、角膜上皮がなんらかの原因で傷付くと角膜にダメージや感染が及んでしまいます。角膜をはじめ、目の組織は過剰な免疫反応を抑制する性質を持っているため治癒力が低く、視力に深刻な障害を残すことがあります。
角膜は感覚が鋭敏な組織のため、角膜疾患では強い痛みを伴うことが多くなっています。
感染性角膜炎
角膜に病原体が感染して炎症を起こしている状態です。コンタクトレンズのケアや使用法が間違っていたり、目にゴミが入ったりして角膜上皮が傷付いてしまって感染を起こします。主な原因には、細菌、真菌 (カビ)、アカントアメーバ(微生物)などがあります。
細菌性角膜炎
角膜に細菌が感染して発症する疾患です。目に傷がついたり、コンタクトレンズのケアが正しく管理できず発症することが多くなっています。原因になっている細菌によって進行のスピードが変わりますが、角膜障害や視力低下につがある可能性があるため早めに適切な治療を受けることが重要です。最悪の場合、失明に至る危険性があります。
目の強い痛み、大量の目やにという症状があったら、できるだけ早く当院までご相談ください。基本的に抗菌点眼薬による治療を行いますが、症状によっては内服薬や点滴・手術などによる治療が必要になることもあります。
真菌性角膜炎
カビの1種である真菌に感染して発症する角膜炎で、症状は細菌性角膜炎とほぼ同様です。発症頻度は低いのですが、免疫力が低下していると発症しやすい傾向があります。細菌ではないため、抗菌剤による治療ではなく、抗真菌薬による治療が必要です。角膜内で真菌が胞子になってしまうため、時間をかけて治療をする必要があります。細菌性角膜炎より症状に乏しいことが多いですが、最悪の場合失明に至る可能性があります。
アメーバ角膜炎
微生物のアカントアメーバが感染して発症します。アメーバは水中に生息していますが、川や池などだけでなく、水道水や砂場など様々な場所に存在しています。衛生環境が整った都市部も例外ではありません。アメーバ角膜炎は、ソフトコンタクトレンズを使用による発症が大半を占め、特に使い捨てレンズを何度も使う、間違ったコンタクトレンズケア方法などによって生じます。主な症状は他の角膜炎と同じですが、かなり強い痛みを生じます。
有効な治療薬がないため、抗真菌薬の使用や角膜表面を削るなどの治療を行います。深刻な角膜混濁を起こして角膜移植以外の治療法がなくなってしまうこともありますので、注意が必要です。最悪の場合、失明に至る危険性があります。
角膜異物
角膜に異物が付着したり、刺さったりしている状態です。強い痛みがあり、感染リスクが大幅に上昇し、濁りを生じて視力低下を起こす可能性もありますので、早急な受診が必要です。
主な原因として、金属加工の作業で飛んできた鉄片・鉄粉があります。他にも、まつげ、植物や昆虫、砂やほこりなど、様々なものによって起こります。
症状は異物が付着した際の異物感、目の痛みで、痛みはかなり強くなることがあります。また、鉄片・鉄粉が付着した場合、放置すると周囲にサビによる環が出ることがあり、その場合はサビの部分もきれいにとらないと痛みなどが残ることがあります。角膜の濁りによる視力低下を起こすこともあります。
治療は異物の除去だけでなく、感染予防も重要です。異物が角膜に刺さっている場合には、角膜表面を観察する細隙灯顕微鏡で確認しながら針などを用い、丁寧に除去します。処置が終わったら抗菌眼軟膏を塗布します。角膜異物による感染では重症化して角膜潰瘍まで進行するリスクがありますので、異物の完全な除去と感染予防をしっかり行うことが重要です。
角膜ヘルペス
角膜ヘルペスとは、ヘルペスウイルスが角膜に感染したもので、単純ヘルペスと帯状ヘルペスがありますが、角膜ヘルペスでは主に単純ヘルペスウイルス1型によるものが多くなっています。ヘルペスにはほとんどの方が幼少期に感染しますが、症状を起こすのは1割程度とされています。感染したウイルスは目の奥にある三叉神経節に潜伏し、9割程度は生涯に渡って症状を起こすことはありません。
角膜ヘルペスの発症は、免疫力が低下している際に起こりやすく、時に再発を繰り返すことがあります。発症しても早期に適切な治療を行うことで視力を維持できますが、放置してしまうと角膜の深刻な混濁を起こして移植が必要になることもあります。
また、ウイルスが神経節に潜伏するため、適切な治療をして改善しても、再発を繰り返すことがあります。その際も早期の治療が重要です。免疫力が低下すると再発しやすいため、普段から体調管理に気を付けるようにしてください。
上皮型
最も外側にあって角膜を守る存在である角膜上皮でウイルスが増殖し、木の枝のような形に上皮細胞が抜け落ちてしまうため、樹枝状角膜炎と呼ばれることもあります。抗ウイルス薬のアシクロビル眼軟膏によってウイルスの増殖を抑制します。
実質型・内皮型
角膜自体にウイルスが感染して炎症を起こしている状態で、濁りが円形に広がっていくことから円板状角膜炎と呼ばれることがあります。視力の大幅な低下を起こす可能性があり、数か月の治療が必要になることもあります。また、治っても瘢痕が残って視力が十分に回復できないこともあります。
抗ウイルス剤だけでなく、炎症を抑える効果を持っているステロイドによる治療を正しく行う治療が有効とされています。
角膜びらん
角膜表面が浅く広さをもって傷付いた状態です。潰瘍よりも浅い傷であり、皮膚であれば軽い擦り傷のような状態です。逆さまつげやコンタクトレンズによって生じますが、結膜炎やドライアイなどの症状として起こることもあります。治療は角膜保護点眼や軟膏点入後の圧迫眼帯、医療用コンタクトレンズ装用などとなります。悪化すると細菌感染を生じますので注意が必要です。
また、再発を繰り返す場合は再発性角膜びらんと呼ばれます。
再発性角膜びらんは、起床時に突然、症状を起こすことがよくあります。
主な症状は、ゴロゴロとした異物感や痛み、涙目、充血です。悪化すると、目を開けているのがつらいほど痛みが強くなることもあります。特に感染を起こすと潰瘍を生じて重症化しやすいため、しっかり治療する必要があります。
基本的に異物があれば除去し、点眼薬による治療を行いますが、悪化している場合は眼軟膏を塗布して眼帯をします。コンタクトレンズは完治まで使用を控えてください。
円錐角膜
両目の角膜の中心が薄くなる進行性の疾患で、前の方へ円錐状に突出し、不正乱視が強くなります。発症しやすいのは思春期であり、30歳の頃には進行が止まります。
視力の低下、ものが二重に見える、ものがゆがんで見えるなどが主な症状で、眼鏡ではうまく矯正できないことがありますが、ハードコンタクトレンズを正しく装用する治療によって症状の改善や進行予防効果が期待できます。こうした治療で十分な効果が得られない場合には角膜の移植や角膜の性質を変えさせるクロスリンキングを検討します。手術が必要な場合には、連携している医療機関をご紹介してスムーズに適切な治療を受けていただけるようにしています。